「お兄ちゃんと同じ中学、行きたかったな・・・。」
普段、後ろ向きなことを口にしない次男が、
ポツリと呟いた。
 それから、あわてて、
「平気、平気!」
と、打ち消した。

 ごめんね・・・。
母だって、それは時折心に浮かんでは打ち消している。

 もうすぐ、2月1日。
東京の主な私立中学の入学試験の日。
お兄ちゃんの受験の日には、
試験会場に向かう生徒と保護者の列にテレビ局の取材が混じっていた。

 あのまま東京にいたら、今頃次男は、
お兄ちゃんと同じ学校を受験していたのだろうか?

 進学校だけあって、生徒の自主性に任せる自由な校風は
親の目から見ても、快適そうだった。
授業の進度も早く、中学のうちに高校の範囲まで進んでしまい、
高校3年は大学受験に専念出来る。
粒ぞろいの友達。
尖った才能を持った個性的な面々。

 一方、次男が通う公立中学は
とてもゆっくりと簡単な授業が進むんだろうな・・・。
私が昔、感じたように・・・。

 高校から進学校に進んだ時、
初めて同じレベルで将来を語れる友達が出来たと感じた。
それまでは、周りの友達に合わせて
興味のないことも興味のあるふりをしていたのに、
高校では
同じことに同じように興味を持つ友達を見つけることが出来、
他の子達も同じ感想を口にするのを聞いて、
自分だけじゃなかったんだと安心した。

 長男の学校生活の話を聞いていた次男は、
自分も同じ学校に入ると決めていて、
長男と同じ塾で、
長男と同じクラスに入るためのクラス分け試験に合格し、
長男と同じように、
トップの成績を争っていた。

 次男が着ることになるかも知れないと思い、
長男の制服は、きちんと残してあったのに・・・。

 ごめんね・・・。
 ごめんね・・・。

 彼が後ろ向きなことを言うと私が落ち込むから、
彼はめったに後悔を口にしない。
いつもおどけている彼が、フッと口にした、
多分、本当の本音・・・。
「お兄ちゃんと同じ中学に・・・。」
母も、行かせてあげたかったよ・・・。

 ごめんね・・・。